撮影日記 2004年8月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
  

 2004.8.30〜31(月〜火) あと少し

「溜め込んでいる仕事を一気に片付けるのだ!」
 と、7月7日に書いた。
 僕は、主に子供の本向けに小動物を撮影するか、そうした撮影とは全く別に、大好きな水辺を気ままに歩き、風景〜水中までその場で感じたものを感じたままに撮るか、いつも2本立てで撮影する。
 ただ、今年は7月7日以降、ひたすらに子供の本向けの撮影に打ち込んでいる。
 そうした子供の本向けの撮影は僕にとって仕事であり、それ以外の気ままに水辺を歩く時間は、同じ自然写真でも趣味である。
 仕事的な撮影ばかりが続くとさすがに煮詰まってくるし、趣味的な撮影ばかりを続けると、いつの間にか自己満足の世界に陥ってしまうので、その2本の柱を上手く組み合わせて撮影できれば、それが理想ではあるが、なかなか思うようにはいかないものだ。
 いつもなら、仕事的な撮影ばかりが続くと、
「あ〜水辺を気ままに歩きたいな!」
 と禁断症状が現れるが、この2ヶ月くらいは仕事があまりに多くて、禁断症状が現れる間もなかった。ふと気付いたら、6月末に山陰の水辺で遊んだことなどが、はるか昔のことのようだ。

 水辺を歩く時は気ままに歩くと書いたが、そうした時にはまず売れそうもない写真も撮る。
 気持ちがいい自然ではなく、大水で荒れ狂った渓流など恐ろしい自然も撮る。それから台風の日なども一度ゆっくり撮ってみたいな〜と思うし、昨日はその絶好の機会だったが、締め切りが迫っていることだし、辛抱することにした。
 つい先日、カタツムリの本の締め切りを迎えたが、今度はセミの本の締め切りが迫っているのだ。
 そのセミの本の締め切りを乗り越えると、次はまだほとんど手をつけていないメダカの本の撮影が待っているが、それでも少しだけゆとりが生まれるだろう。そう思うと、これまで治まっていた、水辺に行きたいな〜という思いが突然にこみ上げてきた。
 9月〜10月半ばくらいまで集中して仕事をして、紅葉の時期は気ままに水辺ですごしたいな〜
 あと少し頑張ろう。

 

 2004.8.29(日) 破産寸前

 現在撮影中のカタツムリの本は、主にフィルムを使用して撮影している。
 そして、フィルムでは撮影が難しいシーンは、デジタルカメラで撮る。たとえば先日画像を掲載したカタツムリの口の中や、日記の中では紹介できなかったが、カタツムリの角の動きを見せる写真のように、たくさん撮らなければヒットしない撮影にはデジカメがいい。
 特に角の動きは、アップで撮影しようとすると非常に動きが早くて、フィルムで撮ると、「いったい幾らお金がかかるんだ?」と、不安になるほどたくさんのフィルムを浪費しなければならない。
 その点デジタルの有難さを痛感させられる撮影であった。
 ただ、その初期投資に、今年はたくさんのお金を使った。
 スタジオでペンタックスの645判のフィルムカメラと並行して使うためにペンタックスのデジタルカメラを買って、さらにペンタックスの35ミリ判用のレンズを買った。それからニコンのデジタルカメラもデジカメ専用のレンズも買った。
 その前に、最新のパソコンを買わなければならなかったし、他にもあれやこれやと買いまくった結果、数日前に銀行に行ったら、あまりの残金の少なさに、「このまま破産するのではないか?と、愕然とさせられた。
 しばらく究極に節制した暮らしを強いられそうだ。
 果たして大丈夫だろうか?と、心配な今日この頃である。
 そんな状況なのに、キャノンからは魅力的な新製品(EOS20D)が発表された。実はキャノンのデジカメも1台欲しいのだ。
 僕はキャノンをメインに使用していないが、65ミリの接写専用のレンズは実に素晴らしいレンズでどうしても手放せないし、そのレンズが使えるデジカメがあれば、望遠レンズから高倍率の接写まで、水中以外のすべての撮影をデジカメで対応できる準備が整うのだが・・・。
 今日の画像のようにしっとりした物を柔らかい光でしっとりと撮りたい時には、ペンタックスのistDの画質が僕の好みにあう。

 さて、今日は帰宅をしたら自宅で探し物をしたかったのだが、台風の接近に備えて、事務所に泊まりこむことにした。
 
 

 2004.8.27〜28(金〜土) ナメクジ

 カタツムリの本の中には、よくナメクジが登場する。なぜナメクジが登場するのか?というと、子供はカタツムリとナメクジの関係にしばしば興味を示すからだ。
 カタツムリの中身が抜け出したものがナメクジなのか?或いは、全く別の生き物なのか?
 そして、ナメクジを撮影することは容易いが、ナメクジはそもそも気持ちが悪い生き物の代表格なので、よほどに上手く撮らなければ、その1ページがグロくなってしまう。
 今回僕が撮影中のカタツムリの本の中にもナメクジのページがあり、簡単なはずのナメクジは、いつも後回しになる。
「よし、明日はフィールドに出かけたついでにナメクジを撮ろう!」
 と決めていても、すっぽかす。
 写真におさめることは易しくても、どういう風に撮れば見やすい写真が撮れるのか?具体的なイメージが頭の中に湧いてこなかったからだと思う。

 さて、今日はツクツクボウシの撮影に出かけたが、ふと足元を見ると実に愛らしいナメクジが這っているではないか。木漏れ日の具合もいい。これは素晴らしい被写体に出会った!と、写しとめてきた。
 今日は上陸して間もないアマガエルが、雑木林の木の枝の股に止まっている姿も見かけた。アマガエルは水辺に卵を産むが、変態を終えると主に木の上で暮らす樹上性のカエルであると言われている。ただ、実際に林の中の木の上でアマガエルを見かける機会は少ないが、それを見ることができた。
 ツクツクボウシの撮影中にナメクジやカタツムリやアマガエルの写真が自然と撮れてくるような状況は、僕にとっては理想的だ。その世界を少しずつ広げていけばいいのではないか?と、多少自信を持てるようになった。
 撮ろう撮ろうと力むのも楽しくないし、マイペースと称してボ〜としているだけの時間も、僕には面白くない。力ずくでもなく、全くの偶然でもなく、今日のナメクジのように、頭の片隅にありながら形になり切れないものが、いい被写体との出会いで一瞬にして形になるような撮影が僕は楽しい。
 
 

 2004.8.25〜26(水〜木) 環境を入れる

 来年出版される2冊のカタツムリの本のうち、1冊の締め切りが明日なので、今朝速達郵便で写真を発送してきた。
 ここ10日ほどはその準備で、毎日朝自宅を出て、撮影が終わるのが深夜の12時過ぎという撮影漬けの時間を過ごした。
 朝はまずフィールドで撮影して、午後から深夜にかけてはスタジオで、ここのところ連日画像を掲載したような実験物の写真を撮る。
 実験物は、しばしばアイディアが必要であり集中力が要求される。時間があるからといって本来は延々と撮影できるものではないが、今回に限っていえば頭が冴え渡り、自分でも信じられないほどの力がでた。
 そのカタツムリの本だが、実質的にはまだ写真を撮る時間がある。ただ、編集者も写真に手に取って本を作るための準備に取り掛からなければならないので、一応の締め切りが設定され、方や編集作業に取り掛かり、僕の方はイマイチな写真を撮り直したり、まだ撮れていないあと数枚の写真を今後撮影することになる。

 さて、だいたいカタツムリの本の撮影が一冊分終わったわけだが、並行して撮影してきたセミの本にもトドメを刺さなければならない。セミの本は来春偕成社から出版される予定だ。
 今日はツクツクボウシと色々なセミの抜け殻の撮影に出かけたが、思いがけず大苦戦を強いられた。
 ツクツクボウシは、町に近い場所から林の中まで幅広く見られるセミだが、一番数が多いのは人里付近の林の中だ。そして、その人里付近を写真で表現するのはとても難しい。セミくらいの大きさのものを接写すると、非常に狭い範囲を撮影することになり、背景に周囲の環境があまり写らないからだ。
 そこで広い範囲を写せる広角レンズを使用することになる。が広角レンズでは物が小さく写るので、今度はひたすらにセミに近づく必要がある。ツクツクボウシくらいの大きさなら、レンズの先端が触れるくらいに近づかねばならない。
 ところがツクツクボウシはとても敏感で、なかなか近づけない。何度トライしてもダメ。第一、高いところでばかり鳴いていて、滅多に近づける場所にさえいない。背景に環境を広く入れた写真を撮りたいが、仕方がないので、それを諦めて望遠レンズで撮影することにして車にレンズを取りに戻ることにした。
 すると何と!車のすぐ横の桜の木の高さわずか50センチほどの場所に、ツクツクボウシが止まっているではないか!駐車場を背景にそれを撮影すれば、人里付近の雰囲気が表現できそうだ。
 そっと近づいて口元を見ると、樹液を吸っているのでこのセミは近づいても逃げない。手が触れるような距離に近づいても、大きな動きさえしなければ大丈夫。
 そして無事撮影することができた。

 今日の画像はニイニイゼミの抜け殻だが、ニイニイゼミの抜け殻は、何となく湿気のある薄暗い場所に最も多い。そうした背景の様子を写し込むためには、超広角レンズを使用して、被写体に近づくしかない。この画像も、15ミリのレンズで15センチの距離から撮影したものだ。
 15センチというのはレンズの先端からではなく、フィルムの位置からの距離なので、15センチの距離から撮影するとレンズの先端から被写体までは数センチの距離になる。

 

 2004.8.23〜24(月〜火) カタツムリの口の中

 今年はカタツムリの仕事が重なり、複数の本のための撮影を同時進行させている。共に来年出版される本なので、この秋までに写真を撮り終えなければならない。
 そこにまた、別の仕事でカタツムリの撮影の依頼がきた。こちらは20カット前後の撮影だからたいしたことはないが、こんな年もあるんだな〜。

 昨日からまたまた苦戦しているのが、カタツムリの口の中の撮影だ。ガラス越しに口の中にある2つの器官を撮影するのだが、ただカタツムリをガラスに這わせてみても、なかなか口を開けてくれない。
「あ、開けた!」
 と思ってシャッターを押しても、中がはっきりと見えるほどではないし、分かりにくい写真しか撮れない。
 だが撮れないのだから、分かりにくいかもしれないが仕方がない。それで我慢しようかな・・・と、弱気になる。
 また、本はどれか一枚の写真が優れていればいい訳ではないし、トータルとしていい写真を揃えなければならない。他にもたくさん撮らなければならないシーンがあるのだから・・・、と諦めるための口実が、頭に浮かぶ。
 あ、そう言えば、7月中旬から8月中旬にかけて取り組んだセミの本の撮影も、あと少しだけど残っているし、もう一度撮影現場にいってセミに関して確認したいこともある・・・などと、他の撮影がやたらに魅力的に感じられる。
 だがな・・・、同じシリーズの本で虫の撮影を担当しているMさんがとても張り切っているという噂を耳にしたばかりだし、難しい撮影をものにしてニヤけているMさんの顔が頭に浮かぶ。やはり負けられないではないか!

 そこで飼育中のカタツムリをひっかえとっかえして、たくさんの個体で同じことを試してみる。すると種類によって若干口の中の見やすさが異なることが分かったが、それでも決定的な解決にはなりそうもない。
 やっぱりダメか・・・とまた諦めかけた時、カタツムリがモグモグと口を動かした。
 なぜカタツムリが口を動かしたが、その理由は伏せておくことにするが、とにかくコツがあることが分かった。メデタシ、メデタシ。

【お知らせ】 
さてさて、この夏僕のセミの撮影の様子を取材したNHK福岡の番組が、以下のように放送されます。恥ずかしいし、あまり見て欲しくないのですが・・・
http://www.nhk.or.jp/fukuoka/program/ningen.html

 

 2004.8.22(日) 今度は苦戦
  
 昨日のように難しそうな写真がいとも簡単に撮れることもあれば、その逆もある。今日は、カタツムリが、殻の入り口に膜を張る様子をガラス越しに撮影したいが、なかなか膜を張ろうとしない。
 画像のように胴体を引っ込めて、膜を張りそうなところまでは何度も到達するが、そのまま数時間静止して、また突然歩き始めるなど、非常にやっかいだ。
 水槽内を乾燥させてもダメ。どうしても動き出してしまう。
 すると一度カタツムリを取り出して、水槽のガラスをきれいに拭き、またカタツムリを貼り付ける。そして撮影可能な場所に落ち着くまで、あれやこれや手を施す。こうしたガラスのど真ん中で、胴体を引っ込め落ち着かせるだけでも、なかなか難しい。
 数匹のカタツムリを試してみると、こうしたガラスのど真ん中のような場所では絶対に落ち着かない個体の方が多い。大抵は水槽の端っこや天井を好むようだ。それからプラスチックのケースの場合、すぐに落ち着いて膜を張りはじめるが、ガラスの表面ではなかなか膜を張らない。恐らくガラスの方が滑り落ちやすいからだと思う。
 しかし・・・、たくさんの個体を試してみると、そうした場所でもあまり気にせずに落ち着くカタツムリがいるので、それはそれで不思議なことだなな〜と、思う。
 そんなことにまで、個体ごとの好みがあるのだから。

 このシーンは、以前にもかなりトライしたことがある。その時は、数え切れないくらいトライして、たった2回だけ撮影できた。ただ難しかっただけに、そのシーンを撮れたことで満足してしまい写真が良くない。だから撮りなおしをしたいのだ。

 仕方がないので水槽に張り付いたカタツムリを横目に日記を更新していたら、突然グングン足を萎めて、殻の入り口をみごと膜で閉じた。
 これからさらに時間が経てば、カタツムリは完全に足を殻の中に引っ込めて、膜だけガラスに張り付いた状態になる。撮影したかった膜はすでに張られているので、この状態で撮影を終えてもいいが、もしも、
「足を完全に殻に納めたところまで撮ってよ」
 と将来注文されたらまた苦戦しそうなので、足を完全に引っ込めるところまで今回撮っておこうと思う。

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 2004.8.21(土) 色のテスト
  
 フィルムを越えた!などと、今人気のデジタルカメラだが、その発色はいかなるものだろう?と、たくさんの色を同時に写し込む意地悪なテストを試みた。
 テストなどというものはそもそも退屈なものなので、ついでにカタツムリを一匹這わせてみた。

 冗談冗談。
 今日の画像はカタツムリの器用さを表わすシーンで、有名なシーンでもある。有名なシーンだから写真のニーズは多くて、撮影すれば間違いなく売れるだろう。
 ただ、最初に撮られた写真の印象があまりに強くて、真似をしてあらかじめ写真を撮っておく気には今までどうしてもなれなかった。だが、現在進行中の仕事の中でそうしたシーンが必要であり、さらに、もしかしたら写真を使うかもしれないので・・・と、また別口からも依頼され、とうとう撮影することにした。
 こうした実験物は意外に難しいことが多い。
「本に書いてある通りに全然ならないじゃない!」
 と、大苦戦させられることも珍しくない。
 だが、今回の撮影は、実にスムーズにことがはこんだ。半日くらい時間がかかるかな?と覚悟していたが、色鉛筆を並べ、最初にカタツムリを這わせみたらすぐに、カタツムリは落っこちることなく見事に歩いてくれた。複数の依頼を受けているので、鉛筆の並べ順を替えたり背景を変えて複数のパターンを試したが、何度でもうまくいく。
 僕としては珍しく順調な撮影であった。

 さてさて、ついでにデジタルカメラの発色に関して書いておこうと思う。
 今回はペンタックスのistDを使用したが、色鉛筆はだいたい忠実な発色で撮れていると思う。唯一黄色の似通った2色の区別が、実物よりも分かりにくい。

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 2004.8.20(金) 図鑑写真
  
 写真雑誌のコンテストに投稿された作品に対する選者の評価の欄を読むと、生き物の写真に対して、
「これではただの図鑑写真です。もっと絵にしましょう・・・」
 と、書かれていることがある。ダメな写真の代名詞として図鑑写真という言葉が使われる傾向にある。
 だが本当に図鑑写真がつまらないのか?というとそうではなくて、写真のコンテストという生き物に興味がない人も参加する場には相応しくないというだけで、図鑑写真には図鑑写真のおもしろさがある。
 僕は図鑑写真の撮影も好きなのだ。
 今日はその図鑑写真を撮影するために、飼育中のカタツムリを連れて、出かけることにした。画像のカタツムリは、中国山地に生息するサンインマイマイだ。

 デジカメを使うようになって以来、ずっとチャレンジしてきたことがある。
 それは図鑑写真を撮影する際に、生き物に一切触れずに、ありのままに撮る試みだ。カタツムリのような薄暗い場所を好む生き物の場合、フィルムではシャッター速度他、写真のメカニズムの側の問題で、ありのままでは撮れないケースも少なくなかった。だが、デジカメはフィルムよりもずっと器用なカメラであり、デジカメならそれができるのでは?と考えたのだ。
「こういう風に撮れればな〜」
 という写真家の側の理想が、デジカメの登場でぐっと近寄ってきたように感じたのだ。
 僕の結論は、デジカメの登場で撮影の幅が広がったことが確かだが、生き物の特徴を分かりやすく見せるという点に関しては、やはりそれに適した場所に生き物を連れて行ってから撮影した写真にはかなわないというものだ。
 例えば今日の画像のサンインマイマイは、個体によっては殻に赤っぽい美しい色がある。その色を分かりやすく見せるためには、背景の色を選び、カタツムリの殻の色を強調するのがいい。具体的には、カラーの場合、赤っぽい生き物はその補色関係にある緑の中でよく目立つので、緑の中で撮影するのがいい。
 このカタツムリは木の幹で採集したが、木の幹の上では、人の目にはこの殻の色が良くわかっても、写真に撮るとそれが伝わりにくくなってしまう。

 僕は、S山さんやA木さんが撮影した洒落たヌード写真を見ても、いいな〜とはあまり感じない。それよりもただの下世話なエロエロ写真の方が、僕には美しく感じられる。
 おしゃれな写真を否定するつもりはないが、僕はストレートな写真が好きなのだ。図鑑写真でも、僕が好きな生き物のその大好きな姿が、ありのままに写っているととても嬉しい。

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 2004.8.19(木) 更新

 今月の水辺を更新しました。

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 2004.8.18(水) もう許して・・・

 もう許して!と、言いたくあるような出来事がここのところ続いている。
 まず7月末にニコンD70が故障し、8月10日に修理が完了すると言われていたのだが、それが伸びて、ようやく明日メーカーを発送されるという。
 そして、今日は三脚の雲台が壊れ、次にストロボがおかしくなった。
 北九州でおかしくなったストロボの代わりを調達しようとしたが、どこにもない。仕方がないので博多まで、あまり好きではない買い物に出かけた。
 これが比較的時間にゆとりがある冬場ならともかく、僕の写真人生の中で最も忙しいここ数日の中で、そんなトラブルが連発しようとは・・・

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 2004.8.17(火) ハイイロゲンゴロウ

 昆虫写真の海野先生の小諸日記をみていたら、ハイイロゲンゴロウについて書かれていた。ゲンゴロウと言えば水中の生き物だが、ハイイロゲンゴロウの場合はよく飛ぶので、水槽に蓋をしておかなければ逃げられてしまうらしい。
 そういえば思い当たる節があるので、今日はそれを書いてみたい。
 
 先日、博多の中でも特に都会度が高い天神でセミの撮影をしたが、夜になると、たくさんのアマガエルの鳴き声が聞こえてくる。公園に噴水があり、ちょうど雨が降ったような状態になっているものだからアマガエルがよく鳴くし、周囲に水辺はないので、その噴水の水溜りでアマガエルは代を重ねているのだろう。
 翌日、今度は昼間にその噴水を見に行った。アマガエルを探そうと思ったら、アマガエルではなくて、おびただしい数のハイイロゲンゴロウを見かけた。
  アマガエルまではある程度想像ができたのだが、ゲンゴロウの仲間とは・・・と、ちょっとばかり驚いた。都会のセミを撮ったので、次は都市の噴水というテーマで撮ってみようか?などと一瞬考えた。
 そのハイイロゲンゴロウがとてもよく飛ぶことを知り、なるほどな〜と納得させられたのであった。ハイイロゲンゴロウは、そうしてよく飛ぶことで分布を広げ、時には大都会の水溜りにも進出するのだろう。
 ところで、ハイイロゲンゴロウは光に集まる習性はないのだろうか?噴水の周囲には街灯が設置されている。もしも光に集まる習性があるのなら、まずは夜間に光に寄ってきて、そのまま真下にある噴水にすみついたのではなかろうか?
 ゲンゴロウといえば、僕のテーマである水辺の生き物だ。いずれ都市の水辺も撮ってみたいと思うが、そうすると真面目な話、噴水はなかなか面白そうだ。

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 2004.8.16(月) 近親交配?

 同じ種類のカタツムリでも、産地によって全く性格が違うことがある。そのカタツムリは主に山陽に生息し、大分県と宮崎県の一部にも生息するセトウチマイマイだが、僕はこれまで広島産と宮崎産を採集して飼育してみた。
 広島産は活発で飼い易いし、よく卵も産む。今年はその子供を飼育しているが、実に死亡率が低くて順調に成長する。
 逆に宮崎産は不活発で飼い難い。どこか神経質というか生命力が弱い印象を受ける。数匹を採集してかなり長く飼育したが、とうとう卵を産むことなく死んでしまった。
 そのあまりに違う性格から、僕は両者は本当は別種ではないか?と一度は考えたが、もしかしたら?と思い当たることがあったので、今日はそれを書いてみようと思う。

 広島産のセトウチマイマイには、殻の色に変異が多い。これが同じセトウチマイマイか?と、不思議になるくらい、様々な色や模様が存在する。
 一方で宮崎産には、変異が少ない。全く同じ模様のものばかりが見つかる。
 殻の色の変異に関しては環境説を唱える人もいるが、僕が飼育をした範囲では、見事に遺伝によって決まる。つまり、広島産の場合、遺伝子が均一ではなくて多くの変異が含まれているのに対して、宮崎産はその逆であると、推測される。
 恐らく宮崎県では、セトウチマイマイの数や分布が限られていて、近親交配に近い状態になっているのではないだろうか?
 僕は学生時代に蚊を研究していたが、わざと近親交配をさせ、実験に適した蚊を作り出そうと試みたことがある。すると、近親交配を重ねれば重ねるほど、どこか神経質で飼いにくく、生命力に欠け、だんだん卵を産みにくくなって、最後は途絶えてしまった。
 何となく、その状態と、宮崎産のセトウチマイマイから受ける印象とが似ているような気がするのだ。

 ところで、大部分のカタツムリは右巻きだが、中には左巻きの種類、例えばヒダリマキマイマイが存在すると、昨日書いた。
 左巻きの種類は、元々右巻きから突然変異で生まれ、それが一つの種類として定着したものだと言われている。そして今でも、右巻きの種類の中に、時々左巻きの子供が生まれると、報告されている。
 右巻きと左巻きの突然変異とは、体の構造上交尾ができない。したがって左巻きの突然変異は、大部分の右巻きの仲間と組になって繁殖することができず、子孫を残すためには、突然変異の左巻きどうしが出会う以外に方法はない。
 だが、左巻きの突然変異は数が少ない。左巻きどうしが出会う確率は低く、大部分の左巻きは、相手が見つからず、寂しく寂しく、子供を残すことなしに死んでいくのだと思う。
 ところが、中には運良く左巻きどうしが出会うケースがある。すると、左巻きどうしの親からは、今度はすべて左巻きの子供が生まれてくる。一気に大量の左巻きが誕生することになり、その左巻きの子供どうしがさらに孫を残す・・・ 
 その結果、とうとう左巻きのカタツムリの集団が誕生する。その1つの例が、昨日のヒダリマキマイマイである。
 つまり、ヒダリマキマイマイの祖先をずっとたどると、ある一組の兄弟がカップルになり、近親交配のような状態で、それが増えていった可能性が高い。恐らくヒダリマキマイマイなど左巻きのカタツムリの遺伝子を調べると、遺伝子が均一で、変異が少ないのではないか?と、僕は想像する。
 すると、ヒダリマキマイマイは宮崎産のセトウチマイマイのように、どこか生命力に欠けるような飼い難い側面を持っているのだろうか?
 これから飼育をして、それを確かめてみようと思う。

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 2004.8.15(日) 左巻き

 ほとんどすべてのカタツムリの殻は、右巻きである。
 中でも代表的な種類が、今日の画像のミスジマイマイであり、主に関東に産する。
 カタツムリの写真は子供向けの本によく登場するが、多くの本は関東を基準に作られていているようであり、関東に産するミスジマイマイがモデルになっていることが多い。

 僕がよく撮影のモデルに使うのは、主に九州に産するツクシ(筑紫)マイマイだが、一般的な本の中でカタツムリとして取り上げるのであれば、ほぼ同じものだと考えてもいいだろう。また、今年は山陽産のセトウチ(瀬戸内)マイマイをたくさん捕まえてきたが、セトウチマイマイに至っては、恐らく解剖でもしない限り、ミスジマイマイとは区別がつかないのではなかろうか?
 ところが性格には若干の違いがあり、セトウチマイマイはとても活発で、ツクシマイマイはたいへんにのんびりさんである。ミスジマイマイはつい最近採集してきたばかりであり、まだ付き合いが浅いが、その中間くらいかな・・・と感じる。
 

 また、中には左巻きのカタツムリが存在する。例えば、上の画像のヒダリマキマイマイだ。
 詳しく調べてみないと分からないが、九州には左巻きの種類が存在しないのかもしれない。僕は九州で、まだ左巻きのカタツムリを見たことがない。図鑑を調べてみても、左巻きの種類は、東日本に産するものばかりなのだ。
 右巻き・左巻きが存在することをはじめて知ったときには、ふ〜んと思った。そんな事もあるだろうな〜と、ただ感じた。それがいつの間にか、左巻きを見てみたい!と思う気持ちが募り、先日上京した際にとうとう採集してきたのだ。
 左巻き・右巻きに関しては、明日時間的なゆとりがあれば、もう少し書いてみようと思う。

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 2004.8.14(土) 収集癖

 僕はこれまで図鑑を作りたいと思ったことが一度もなかった。生き物の図鑑を作るためには、たくさんの種類の生き物の写真をそろえなければならないが、僕には収集癖がないので、何であるにせよ、種類をそろえることが不向きなのだ。
 ところが最近、カタツムリの図鑑を作ってみたくなった。
 きっかけは仕事を依頼され仕方なく撮影してみたカタツムリだったが、まるでその歩みのように少し〜ずつ少し〜ずつ興味が増し、いつの間にか、そんな気持ちになった。

 カタツムリに関していうと、まずまともな図鑑が存在しない。
 それから一般的に図鑑は分類学上の分類にしたがって整理されているが、カタツムリの場合は、それではとても使いにくい図鑑になる。
 カタツムリは、地域ごとに種類が実に細かく分かれている。例えば、瀬戸内にはセトウチマイマイが、九州にはツクシマイマイが、関東にいくとミスジマイマイなどという種類が見られるが、それらは大変に良く似ていて、どこがどう違うのか、マニアでもない限り、図鑑上で区別をすることはとても難しい。
 それを分類に添ってズラズラ・・・と並べられても、目の前にいるカタツムリがどれに相当するのか、まず判別することは難しい。
 僕は分類にそった図鑑ではなくて、地域ごとのカタツムリ図鑑を作ってみたい。だが、まずほとんど売れないだろうし、手をあげてくれる出版社なんてないだろうな・・・。
 マニアックな種類までもを網羅するような図鑑ではなく、僕が全国をフラッと一通り歩き、各地で真っ先に見られるカタツムリを取り上げる。カタツムリの図鑑の場合、それが一番使いやすいような気がするのだ。

 さて、11日にも書いたが、そろそろ本格的なカタツムリの撮影に取り掛りたい。その前に、メダカの撮影で、早めに撮っておいた方が良さそうな写真が1点あり、今朝はまずメダカの撮影から取り掛かった。
 夕方からは、さっそくカタツムリを撮影してみた。明日は、若干天気が崩れる予報だ。明日もカタツムリの撮影を予定している。できれば雨が降って欲しい。

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 2004.8.12〜13(木〜金) ストイック

 メジャーリーグのイチロ−選手、好きなタイプか?嫌いなタイプか?と問われれば僕の好きなタイプではないが、それでもプレーをしている映像が流れると、カッコイイな〜と思う。たとえ自分の好みのタイプではなくても、結果を出せば、凄い!と認めざるを得ない勝負の世界や結果の世界が僕は好きだ。
 ところで、イチロー選手の何が好みではないか?と言えば、話が真面目すぎて面白くなさ過ぎるところだ。野球ってそんなにストイックにやることなのかな?と、思えてくるのだ。
 そうして考えると、自然の写真にも似たような側面があるように思う。

 数年前に、博多で大発生しているクマゼミを撮影したかった報道カメラマンが、セミを一本の木にボンドでたくさんくっつけて撮影していたと、叩かれたことがある。
 僕は昔昆虫の標本が好きだった時期があり、壊れた標本を修理しようと何度も何度も瞬間接着剤でトライしたが上手く接着できず、虫は接着剤ではまともにはくっ付かないと思うのだが、とにかく何かインチキをして撮影したことだけは事実のようだった。
 今年も、クマゼミがN新聞の一面を飾った。羽化したセミが夜のネオン街をバックに羽を乾かしているといった内容の記事が書かれていたが、どうみても羽化したてのセミではなく、ただのクマゼミの成虫だった。止まっている場所も不自然で、羽化のシーンが撮れなかったカメラマンが、予め捕まえておいたセミをそこに置いて撮ったとしか思えない写真だった。
 この一枚の写真が、そのカメラマンの手柄や生活に直結する写真であれば、嘘をついてでも撮りたいと思う動機は理解できるが、報道カメラマンが、たかがクマゼミのことで嘘までついて記事を載せなくてもいいのではないか?
 そのカメラマンを不真面目だと言う人もいるだろうが、そこまでして撮らなければならないと思い込んでいるその人を、僕はむしろ真面目でストイックな人だなと感じる。
 イチロー選手のストイックさとは質が違うが、自然の撮影にはもう少し大らかな態度が相応しいように思う。もちろん頑張るべき状況があり、相応しい頑張り方があることも、付け加えておく。

 さて、今日はそのクマゼミの撮影に出かけた。
 予定していたシーンの1つが、時期が遅すぎて撮れないことが判明したが、代わりになるような写真を撮った。今年は梅雨明けが早かったからだろうか、恐らく博多のクマゼミのシーズンは、例年よりも一週間くらい早いのではないか?と思う。
 一通りの生態を撮影してみて、
「あ〜、あと一週間取り掛かりが早かったらわけもないのにな〜」
 と感じた機会が何度かあった。セミは無数に見られるがいろいろな生態をスムーズに撮ろうとすれば、やはり旬を押さえてなければ難しい。一週間遅れただけでも、かなりのハンディーになる。
 年に一度しか出現しない虫の場合、意外にそのシーズンは短いな〜と、感じた。

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 2004.8.11(水) ぶりっ子

 このところ連日打ち込んでいたセミの撮影が、ようやく峠を越えた。あと数カット、人ごみの中に脚立を立てて撮るなど、それなりに苦労しなければ撮れない写真があるが、それも1日あればなんとかなるだろう。
 次は、カタツムリの撮影が待っている。カタツムリは、ここ数年たくさん撮影しているので要領はほぼ分かってはいるが、こちらは何といっても撮らなければならない量が多い。30ページ弱の本が一冊に、40ページ弱の本がさらに一冊。あとは、数点図鑑用の写真撮影が待ち構えている。
 あまりに量が多いので、今年作る本のうちの1冊は以前から撮り貯めている写真中心で対応しようか?と考えていた。が、本の担当の編集者であるSさんが、
「同じシリーズで虫を担当するMさんからメールが来ました。藪の中で人相が変わってしまうほど全身を蚊に刺されつつも、いや〜これがロマンですよ!と嬉々として撮っておられるようです。」
 という。
 そうなると負けるわけにはいかないので、やはり新しく写真を撮ろう!と、さっそく心を入れ替えた。かなり忙しくなるだろうが覚悟もできた。何となく編集者にうまく乗せられている感じもなくはないが、それに乗るのもいいのではなかろうか?
 そもそも多くの男性は、そうして乗せられやすい生き物なのだと思う。女性が嫌いなタレントの中に、ぶりっ子だ!という理由で上位にランクされている井上和香さんや小倉優子さんなど、コマーシャルその他で初めて見たときには、僕も、
「なんじゃコイツは・・・」
 と思ったが、何度かテレビで見ていると、
「お〜なかなかカワイイではないか!」
 と、それがぶりっ子だと分かっていても、つい乗せられる。
 そう言えば、学生時代に付き合っていた女性から、
「あなたは媚を売るようなタイプの女の人に弱い。騙されやすい。見てて不愉快だ」
 と非難をされたことがある。別に騙されている訳ではなくそれでイイやと思えているのだし、僕は最後まで騙されて貢いだりすることもないし一線を引けるつもりだが、どうも彼女にはそれが理解できなかったようだ。
 
 一応念のために補足をしておくと、カタツムリの本を担当される編集者のSさんがぶりっ子だというわけでは全くない。乗せてくれる人がいたら、素直にそれに乗せられて楽しく過ごせばいいじゃない?という話である。それが理解できず、
「あなたは媚を売るようなタイプの女の人に弱い。騙されやすい。」
 などと僕を非難したその方に対する遅すぎる反撃でもあるのかな・・・?

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 2004.8.9〜10(月〜火) 焼け野原

 今日はK社での打ち合わせの日だ。今回はいろいろと訳あって僕の事務所から空港までを車で送ってもらい、空港から宿泊先、宿泊先からK社まではタクシーで移動をするという贅沢な上京であった。
 つい先日の3日も同じ目的で打ち合わせをしたばかりだが、今回は海野先生が加わってくださった。海野先生がおられると、一般的な本に書かれていないことや僕が知らないことを先生が話してくださるので、それを楽しみに出かけた。
 そうして何かを教わることは楽しいことだな〜と、しみじみ感じた。しかし、なぜ教わることができるのか?と考えてみると、僕が何かを知らないからこそ教わることができるのだし、知らないということもまた素晴らしいことなのかな・・・などと、屁理屈っぽいが、思う。

 さて、今回は都会で増えているセミに関する本作りの打ち合わせであったが、なぜ都会でセミが増えているのかを僕は撮影しながら考えた。海野先生も、日頃観察したり、考えておられることを話してくださった。
 そして、その原因は幾つかの要素の複合的なものではあるが、街路樹の移植によるセミの卵の移動が、とても大きな原因の1つではないか?という結論で一致した。
「ところで、この近辺にはミンミンゼミが特に多いのだけど、この辺りの街路樹はね・・・」
 と、海野先生が東京の市ヶ谷近辺の街路樹の歴史を紐解いてくださった。聞けば、市ヶ谷近辺の街路樹は、戦後に植えられたものなのだそうだ。
 では、なぜ戦後に植えられたか?というと、戦争で一度焼け野原になったからだ。つまり、そのころにセミの卵付きの街路樹がまとまって都内に入ってきた可能性は高い。
 もしそうだとすると、今度は戦前のセミについて知りたい。そのためには、お年寄りに聞いてみればいいではないか。だが、現実には、そんなことを正確によく憶えている人なんて滅多にいないだろう。
 セミのことを考えていった結果、街路樹のことを考え、さらに戦争のことを考える結果になるとは・・・。

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 2004.8.8(日) 都会の虫

 滅多に休日を作らない僕だが、上京の翌日は大抵休みにする。だが昨日に限っては、ここ数日で急いで撮らなければならないシーンがあり、早朝から撮影に出かけた。
 さすがにきつかったな〜。僕にとって上京ほど疲れることはないのだ。
 その昨日の撮影だが、狙っていたシーンが撮れた。それが撮れないケースを想定して今日も予備日としてあけておいたので、代わりに今日が休みになった。もっとも休みといっても、急きょできた休みなので何かをして遊ぶ計画もなく、結局、撮影機材の改造をして一日を終えた。

 明日からは再度上京して、明後日は、また本作りのための話し合いがある。3日の火曜日に打ち合わせをしたK社の編集部の方々と僕の師匠である昆虫写真の海野先生とで、もっと密な打ち合わせをするのだ。
 その打ち合わせだが、本のテーマは都会で増えている虫だ。
 精一杯撮影した結果、なぜその虫が増えているのか、僕の答えは準備できたように思う。今回の撮影では写真以上にその自分なりの答えが大切ではないか?と、撮影前から感じていたが、写真を撮りながら自然に、こうではないか?という答えが、僕の頭に浮かんできた。
『乾燥した都会には乾燥に強い生き物が増えている』と一般的には言われているが、本当に乾燥が原因なのか自分の目で見て、そして考えて、また確かめた結果、自分なりの答えを持っていることがまず肝心であると感じた。
 そして、いろいろなケースを観察してみた。
 思いがけないこともあった。またあまり知られていない現象にも気付いた。
「手付かずの自然を写した写真ばかりが自然写真ではない!」
 と主張する人がいる。僕もそうだと思う。町で増えている生き物もいるのだ。
 そして同時に、なぜその生き物が町で増えているのか?撮影者なりの考察が重要であり、ただ研究者がそう言っているからと、その答えを鵜呑みにして都会をバックに生き物を撮影しても、僕は都会の生き物を写したことにはならないと思う。
 辛辣ではあるが、それは単なる記念写真である。町の生き物を写す人が増えているが、多くは記念写真であり、十分な時間をかけ、自分なりの答えを持って撮影された写真は意外に少ないように思う。

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 2004.8.7(土) 例によって

 沖縄在住の自然写真家・湊和雄さんから、
「あれ?もう福岡に帰ってしまったの?確か日記には16日まで上京と書いてあったような・・・」
 と、さきほど電話をもらった。ちょうど上京中の湊さんが、
「東京で会うのもいいよね。」
 と、誘ってくださるつもりだったのだ。
 それで慌てて過去の日記をみてみると、16日まで上京と書いてあるではないか!僕の得意技の1つである誤字・脱字・書き間違えの類であった。
 しかしまあ、声を掛けてもらえるというのは嬉しいことだ。
 その縁を、不思議なことだなぁと感じることがある。単に同じように自然写真を撮っているというだけで、親の知り合いでもないし、学校や会社の先輩でもない。本来は接点があるはずもない赤の他人である。
 僕の自然写真の仕事は、とにかくそんなことだらけなのだ。

 さてさて、参考になるかどうか、僕の車に載せていたナビゲーションシステムがひどく誤作動をするようになり、修理に出していた。
 結果は異常なしとのこと。恐らくアンテナの取り付け位置の問題では?という診断だ。
 ナビが時々誤作動をするのは最近に始まったことではなく、毎年梅雨時にGPSからの電波を受け取れなくなり、車がどこを走っているのかをたまに見失なうことがあった。だが、それ以外の時期には全く正常に働くし、また梅雨時だからといって100%いつもおかしいわけでもない。
 だから修理に出しにくくて放っておいたのだが、今年は特に症状がひどく、見てもらうことにした。

 僕の車はワンボックスのワゴン車なので、他の多くの車よりもフロントガラスが地面に対して垂直に近い角度にたっている。そのフロントガラスの角度の問題で、どうもフロントガラスの真下に置いたアンテナへは、GPSからの電波がワゴン車の場合は届きにくくなるようだ。
 ではなぜ梅雨時に?ということになるが、GPSの電波を出す衛星の位置の関係で、そんな時期があるのだそうだ。
 また、なぜ今年は特にひどいの?という点については、三菱デリカからトヨタハイエースへの車の買い替えが原因だろう。共にワンボックスタイプの車ではあるが、微妙なフロントガラスの角度の違いがあるのだろう。

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 2004.8.6(金) 人柄

 昨日、関東産のカタツムリを探すために一緒にフィールドを歩いてくださった昆虫写真家の新開さんは、僕がもっともフィールドの歩き方が上手いのでは?と、日頃感じている写真家だ。
「どうしたらあんなに次々と生き物の面白い現象を見ることができるのだろう?」
「その自然観察の上手さは、いったいどこからくるのだろう?」
 と、とても強い興味を持って僕は新開さんと接したが、その上手さの源の1つに、新開さんの人柄の細やかさがあるように僕には感じられた。
 まず、朝9時40分に待ち合わせをしていたのだが、新開さんは何とそれよりも10分も前に迎えに来てくださった。約束の時間よりもかなり早いが駅前でじっと待っている車を目にして、もしかしたら?と、車内を覗き込んでみたらやはりそうだった。
 また、待っている車の助手席の窓が開けられていて、恐らく僕が話しかけやすいように、そうしてくださったのではないだろうか?
 そうした思いつく限りの細やかさで自然を丁寧に丁寧に見て積み重ねていけば、あるいは新開さんのように、優れた観察眼を養えるのかもしれない。もちろん自然が大好きであることが大前提ではあるが、単に生き物を見る行為でも、その人の性格や人柄が無縁ではないように、僕には感じられる。

 さて、最後の打ち合わせを追え、今晩東京から帰宅をした。
 すぐにトンボの写真家・西本晋也さんがうちの事務所に立ち寄ってくださったが、実は、上京する前に、僕が現在撮影中の虫の交尾行動を、
「もしも時間がとれたら、探してみてもらえませんか?」
 とお願いしていたのだ。
 その結果を詳しく報告するために寄ってくださったのだが、僕が撮影にちょっとばかり苦心している虫の交尾行動を見事な観察眼で見つけ出し、その際に撮影した画像を見せてくださった。その画像は、僕にとってヒントに満ち溢れたものであり、大変にありがたい。
 西本さんは、とにかく何かを見つけ出すのが上手い。数ヶ月前にも一緒に虫の卵を探しに行ったが、僕が苦心しても見つけることができなかった卵を、実に簡単に見つけ出してくださった。
 何かを探し出す時の西本さんの姿は実に楽しそうだ。そうした姿を目の当たりにすると、血相を変えて探すだけが能ではないなと教えられる。
 だが、そうして楽しそうに探すことができるのは、その場の心構えだけでなく、きっと西本さんの性格によるところが大きいだろう。たかが(?)昆虫の観察にも、人柄が表れるのだ。

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 2004.8.03〜05(火〜木) 打ち合わせ

「毎日の日記の更新、凄いですね!」
 と、よく言われる。
「いやいや、たいしたことはありませんよ。」
 と、僕は答える。もしも、必ず内容がある文章を書かなければならないのならともかく、その日の報告程度であれば、強がりではなく、僕にとっては本当にたいした作業ではないと、ずっと感じていた。
 だが火曜日に上京してから今日(木曜日)まで、僕はとうとうパソコンを立ちあげることができなかった。疲れて、その気力が湧かなかったのだ。やはり、町を歩いたり、人に会ったり、打ち合わせをすることは、大変に疲れることだと痛感させられている。

 さて、上京した初日の火曜日はK社で、来年度出版される本のための打ち合わせだ。午後の3時から9時半までの長い打ち合わせになった。
 時間の長さから、さすがに疲れたが、楽しいこともあった。話を聞いてもらえた!という実感があったのだ。
「話を聞いてもらえたって、打ち合わせに行ったのだから当たり前でしょう?」
 と、或いはそんな疑問をお持ちの方もおられるかもしれないので説明しておこうと思う。
 生き物の写真を撮るような写真家は、程度の差こそあれ、基本的には全員オタクだと断言しても言い過ぎではない。そのオタクの話はなかなか伝わらないものだし、僕もそれに慣れっこになってきて、いつの間にかそのオタクさをセーブして、
「まあ、これくらいが伝わる範囲の話かな。」
 と、話すようになっている。伝わらない相手に幾ら話してもしかたがないのだ。
 だがそれで失われるものもあるだろうなと、いつも思う。例えるならマグロの中落ちみたいなものだ。基本的には捨ててしまう部分だが、そこに実は一番美味しいところもある。今回は、打ち合わせの中で、そんないつもセーブすることで失われてきた部分までもを、うまく汲み取ってもらえたような気がしたのだ。

 昨日、水曜日は、S社でメダカの飼育の本の打ち合わせだ。飼育の本の場合は、いわゆる自然を写した物とは違い、絵作りの美しさで写真を見せることが難しいので、内容が分かりやすく、よく洗練されていることが大切だと思う。
 今回の本は、
「メダカを飼っているけど増えないよ・・・」
 とよくたずねられるので、その通りにすれば本当にメダカが増えるような本になればいいな〜と思う。
 打ち合わせのあとは、S社の自然関係ではない別の部署で話を聞いてもらう機会があったのだが、そこでちょっとハッとさせられることがあった。
「今回はどんな打ち合わせをしておられるのですか?」
 とたずねられ、
「メダカが本当に増える本を・・・」
 という僕の返事に、
「でも、私はメダカがたくさん増えたら処理に困って嫌だな〜」
 という感想を聞かせてもらったのだ。
 これは、自然関係の出版に携わる人からは、まず聞くことができない感想ではないだろうか?しかし、生き物が好きではない人もたくさんいるのだ!と痛感させられる非常に厳しい言葉である。
 むしろ、人口比から言うと、メダカを増やしたいなどと思う人の方が、圧倒的に少数派で、有名なメダカでさえ、それに触れてみたい、増やしてみたいと思う人はオタクの気があるのだ。
 自然写真で生活することが難しいはずだと、痛感させられる瞬間でもあった。
 
 今日はちょっと足を伸ばして、東京から埼玉県との県境まで出かけてみた。目的はカタツムリの採集で、昆虫写真家・新開孝さんのフィールドにお邪魔をした。
 非常に楽しかったので、ようやくパソコンを開く気になった。
 採集の結果は、後日帰宅をしてからゆっくり書きたいと思う。

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 2004.8.02(月) SSP展

 僕が所属する日本自然科学写真協会(SSP)の写真展・第25回SSP展福岡展の準備をするために、今日は博多のフジフォトサロン福岡へと出かけた。僕は今回ダンゴムシの出産シーンの写真を出品している。今日から8月13日(土・日・祝休)まで、写真は展示される。

 明日から16日までは上京して、来年出版される本のための打ち合わせをする。いつもは上京する際には、午前中に一箇所、午後から一箇所と、だいたい2箇所を訪問することが多いのだが、今回からは原則として一日に行く場所を一箇所に絞ることにした。その他の時間は、ホテルでゴロゴロして過ごそうと思う。
 午前に一箇所、午後に一箇所と二箇所に行こうとすると、その間にホテルに帰る時間がなくなり、結局丸一日東京の街を歩き回ることになりがちだ。そうすると疲れが半端ではないし、そのイメージが身に染み付いて、上京することが本当に苦痛に感じるようになった。
 何事も頑張るのはいいことかもしれないが、物事は嫌いになるほど頑張ってはならない。
 時々、
「休みの日は何をしますか?」
 と、質問を受けるがあるが、僕はよほどにひどく体調でも崩さない限り、日頃休みを取らない。何かいつも動いてなければならないタイプなのだろう。例えるならコマのような感じだろうか?コマは動きが止まると倒れてしまう。
 だが上京して、ホテルの部屋の中ではほとんど仕事ができないし、そんな僕でも休むことができるかもしれない。例えば、
「夕方打ち合わせをして、その後は食事にでも行こうか!」
 という予定の日には、夕方までもゴロゴロすることができる。果たしてそれはどんなものだろうか?と、今回の上京は、ちょっと楽しみでもある。
 日頃はあまり贅沢をしたいとは思わないが、こんな時は、山のようにお金があればな〜と思う。そしたら自宅よりもリラックスできるすばらしいホテルの部屋でゴロゴロして過ごせるではないか!
 現実には、僕の取材用のワゴン車よりもちょっと広い程度の、よくぞこんな狭い部屋を作ったよな〜というような空間に泊まるのだが。

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 2004.8.01(日) サッポロマイマイ

 サッポロマイマイというカタツムリを撮影するために、朝一番の飛行機で、ちょっくら北海道まで行ってきた。
 ご覧の通り、見事なカタツムリを見つけ出し、カシャ、カシャ、カシャ、カシャとシャッターの拍手を浴びせてきた。

 というのは冗談で、このサッポロマイマイは北海道在住の自然写真家・門間敬行君が送ってくれたものだ。本当は北海道に行って撮影したいのだが、予算や時間の都合があり、友人にお願いすることにしたのだ。
 北海道で採集されたカタツムリを九州で撮影すると、写真に写っている樹木や植生がおかしなことになってしまう可能性が高い。そこで、いろいろと考えた挙句、
「北海道にも桜前線はあったよな・・・」
 と、桜の木を選ぶことにした。背景はひたすらにぼかす。
 せめて少しでも嘘をつかないように、カタツムリが自然条件下で活発に活動する雨の日に撮影しようと、天候を待っていたのだが、今日は台風のお陰で雨が降り、ようやく撮影することができた。
 次は関東産のカタツムリを撮影する予定にしている。
 こちらは上京のついでに何とか自分の目で見て採集して帰りたいと思う。ただ、どこに行ったらいいのか皆目見当が付かないので、関東をフィールドにしている方に、一緒にフィールドを歩いてもらえるように、今申し込んでいるところだ。

 さて、カタツムリを送ってくれた門間君はナイスガイという言葉がピッタリ来る、とてもいい奴だ(カタツムリを送ってくれたからではない)。またロマンチストで、優しい気持ちの持ち主でもある。
 一度北海道で一緒に撮影したことがあるが、生き物を思いやる気持ちが人一倍強いように感じた。それがカタツムリの送り方1つにも滲み出ていて、僕は送られてきたカタツムリを手にした時に、何だか心を打たれてしまった。
 カタツムリはダンボールに入って送られてきたが、ダンボールの中でさらにタッパーに収められていて、タッパーには窒息してしまわないようにという配慮だろう、門間君が自ら工作した細いスリットのような穴がたくさんあけられていた。
 本当はカタツムリ程度の生き物はそう簡単には窒息しないし、密閉して簡単に送ってしまっていいのだが、その念の入れ方に、絶対に命を粗末にしない彼の思いが表れているように感じられたのだ。
 実験生物学出身で、学生時代に山のように生き物を殺してきた僕には、身につまされるような気がしないでもない。

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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2004年8月分


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